雨傘(ダイ嬢)
(前提:学園パロ)
「あれぇ、どうしたの、お嬢様?」
ダイヤは、昇降口に一人たたずむ少女に声をかけた。
高貴さがどことなく漂うその顔が、ゆっくりとダイヤに向けられる。
なにか言ったような気がしたが、聞き取れない。
激しく降っている雨が、すべての音をかき消していた。
「ちょっと待って」
ダイヤは自分の下駄箱から靴を出し、履きかえる。
ダイヤの靴はあまり防水に優れたものではなく、すぐに濡れてしまうのは目に見えていたが、ないよりはましだ。
ダイヤは少女に駆け寄った。
「おまたせ」
どんなに緊張しているときでさえ、見る者をほっとさせるような笑顔を、ダイヤは浮かべた。
少女は、小さな顔で外を眺めたまま、言った。
「……待っているのです」
「誰を? あ、お迎え? いいなあ、おいらも、あんな親切なおじいさんがいたらなぁ」
しかし少女はきっぱりと言った。
「違います」
「え?」
「私が待っているのは、じいやではありません。雨がやむのを待っているのです」
その言葉に、さすがのダイヤも唖然とした。
とても弱まりそうにない雨脚。
それどころか、ますます雨は激しくなっているようだ。
「じゃあ、あのおじいさんは?」
「じいやには、迎えに来ないように言ってあります」
どうして? と聞こうとしたダイヤは、以前パールが言っていた言葉を思い出して、踏みとどまった。
少女は最近、引っ越してきた。
クラスメートたちは、その少女をなんとなく近寄りがたく感じて、遠目に眺めていた。
言葉遣い、持ち物、高貴さ、そして「お迎え」が来る彼女の家柄……。
すべてが、自分たちとは違うと感じたようだ。
嫌われているわけではないけれど、学校内で自然と彼女は一人になっていた。
それを、気にしないようでいて気にしている少女に、パールは言ったのだ。
「まず、お迎えからやめてみたら?」
しばらくダイヤは少女を見つめ……、なぜか少し、胸の中に暖かな気持ちが生まれた。
そっけない物言いばかり言うこの少女が、なぜこんなにも気になるのか。
なぜこんなにも、きらきらしているのか。
ダイヤは言った。
「じゃあ、歩いて帰るの?」
「はい」
「それじゃあ、おいらと一緒に帰ろうよ」
しかし、少女は首を振った。
ダイヤは、一瞬自分が嫌われているのではないかと思ったが、次の瞬間、彼女が傘を持っていないことに気づいた。
「もしかしてお嬢様、傘持ってないの?」
「はい」
パールなら呆れただろう。
なぜ、そんな時にじいさんを呼ばないのか、と。
しかし、ダイヤはにっこりと笑った。
「じゃ、おいらの傘に入れてあげる」
だが少女は冷静に言った。
「一本しか、持っていないのでしょう?」
「大丈夫。二人で使おうよ。おいらの傘、結構大きいんだ。いつも、べーと一緒に使っているから」
「しかし……」
少女は少し、ためらった。
「それとも、雨がやむまで、待つ? おいらも一緒に待っていてあげるよ」
少女はもう一度、外を見た。
あの雲にどれだけの水が蓄えられていたのかと疑うほどに、とめどなく雨があふれている。
少女は、ダイヤに視線を戻した。
「……お願いします」
雨の下、一つの大きな傘が花を咲かせた。
芽吹 巴菜のみお持ち帰り可。
誕生日を3か月ほど過ぎたけど、誕生日小説パターン1です。