ポケギア(相互小説)
「ふう〜。やっぱ、癒されるっスね〜」
ゴールドは満足そうに岩にもたれかかり、シロガネの秘湯に身を沈めていた。
レッドに修業をさせてもらって、数週間。そろそろ、あのバカシルバーに追いついてもよいのではないだろうか?
隣に入っていたレッドが、そんなゴールドをみて苦笑した。
「すっかり、おっさんになってるぞ」
「まあまあ。いいじゃねぇっスか。極楽極楽」
シロガネの秘湯に浸かっていると、修行の疲れも辛さもすっかり吹き飛ぶ。
そんな風に、至福の時を満喫していると……
トゥルルルルル……
軽快な音が鳴り響いた。レッドとゴールドは顔を見合わせる。ポケギアの着信音のようだ。
「……レッド先輩のじゃないっスか?」
「いや、オレは持ってない。持つ暇もなく、ここに来たからな」
ゴールドがため息をつく。そんなゴールドに、レッドは言った。
「そんなに、面倒がらなくてもいいじゃないか。たまには出てあげろよ。お袋さんからかもしれないだろ?」
ゴールドは、レッドが言うならと、温泉から這い出て、リュックのポケットを探った。
「はいはいはい。ちょっと待ってくださいよ」
リュックから取り出されたポケギアは、ますますけたたましい音を立てる。ゴールドはポケギアを耳に当てた。
「もしもし? 母さん?」
すると、思いがけない声が返ってきた。
『…………シルバーだが』
ゴールドはポケギアを取り落としそうになった。
「しっ、シルバー!? お前、自分から電話するようなキャラだったのかよ!?」
『うるさいな』
ちょっと照れたような声だった。
「で? なんか用なのか?」
『ああ。ちょっと、電話かわるな』
「え? かわるって、誰に?」
聞き返したが、すでにシルバーはポケギアを耳から離していた。少しの間、手を持ちかえるような音が聞こえた後、こんな声が飛び込んできた。
『ゴールド?』
「ゲッ、クリス!」
反射的にゴールドは、ポケギアを耳から離す。案の定、次に聞こえてきたのは、クリスの怒鳴り声だった。
『ゲッって何よ、ゲッて! なんで今まで、まったくポケギアが通じないのよ! 何回かけなおしたか、わかってるの!? やっと事件が解決したと思ったら、あっという間にいなくなっちゃうし! それも、レッドさんまで連れてって!』
「あー、悪かったよ。謝るってば。そんなに怒鳴らなくたって……」
『グリーンさんやブルーさんだって、どれだけ心配したと思ってるの!?』
しかしクリスには、レッドがゴールドの後ろで
「いや、あいつらが心配しているとは思えないけど……」
という声は聞こえなかった。
『だいたい、事件解決後はケーサツが来るのを待ってなさいよ! っていうか、それ以前にポケギアよ! なんで音通不信なのよ!』
ゴールドは「わかったよ」と「謝る」を繰り返し、クリスが落ち着くまで待った。やっとクリスが落ち着いたころ、ゴールドは切り出した。
「……んで、用って、なんだよ?」
しばらく間があいた後、クリスは言った。
『私、今度ホウエン地方に行くわ。博士に、ホウエンの図鑑も頼まれちゃって』
すぐさまゴールドは反応した。
「ホウエンって言やぁ、フエンせんべいのある所じゃねーか! ぜひ、土産を買ってきてくれよな!」
『あんたの頭の中は、それしかないの!?』
ゴールドは目を落とした。
「……ま、頑張ってこいよな。オレも、頑張ってっからよ」
しばらく間が空いた。そして、いつもの元気な口調でクリスは言った。
『それとね、シルバーも、自分のルーツ探しをするんだって』
「ルーツ探し?」
『うん。ほら、シルバーって、自分のお母さんの顔、知らないじゃない』
「ああ、そうか」
そういえばシルバーは、幼いころにさらわれたんだっけ。
『シルバーにかわるわ』
そして再び、シルバーが電話に出た。
『……もしもし』
「ルーツ探しをするんだって?」
『ああ。……実は姉さんが、自分の手がかりをつかんだんだ。もう、再会する日も近くない。だから、オレも――』
「ぜってー見つかるから、心配すんなって。見つかったら、オレにも紹介してくれよな! おめーのライバルは、このオレだってな」
『貴様ごときが、オレのライバルだと?』
「なっ、なんだよ、文句あっか! オレがバンギラスを倒した日のこと、忘れたわけじゃねーだろ?」
『……わかった。そう、伝えとく』
ゴールドは一人でガッツポーズした。
「ところでお前、どこでルーツ探しをするつもりなんだ?」
『カントー』
「カントー?」
『そこに、何かがありそうな予感がするから』
ゴールドはしばらく黙った。今まで、離れているとは言っても、三人とも、ジョウトにいた。なんとなく、そんな安心感があった。けれど今度からは、三人とも、別々の地方にいることになる。
「そっか。おめーがそう思うなら、そうなんだろ。頑張って探せよ」
『言われなくても、そうする』
シルバーが電話を切りそうになったので、ゴールドは慌てて言った。
「オレは今、レッド先輩に修業させてもらっている」
シルバーは怪訝そうに聞き返す。
『だから、何だ?』
ゴールドの顔がニヤッと笑った。
「だから次は、ぜってーおめーに勝つ!」
ゴールドの指が、ポケギアのボタンに伸びた。通信が切れ、続いて電源も切られた。ポケギアの画面が、真っ暗になる……
シルバーはしばらく、通信の切れたポケギアを見つめていた。傍らにいるクリスが言う。
「これでしばらく、ゴールドとは連絡がとれないわね」
「ああ」
久々に聞いたゴールドの声は、いつもと変わりなかった。元気にやっているのだろう。
「でも、連絡がとれただけマシよね。これで心おきなくホウエンに行けるわ」
「ああ」
知らない土地に行く不安は、必ずある。クリスもシルバーも、不安があった。何人もの人に、「大丈夫」と励まされても……。
でも、ゴールドの元気な声と「頑張れ」に勝るものはなかった。ゴールドも頑張っているんだというその仲間意識が、不安を吹き飛ばしてくれる。
シルバーは言った。
「オレ、今すぐカントーに向かおうと思う」
「今すぐって、今すぐ? たった今、ここでってこと?」
「ああ」
クリスは突然のことに驚いた。しかしゴールドの元気な声を思い出し、ニコリと笑った。
「そう。思い立ったが吉日って言うものね。元気でね」
「ああ」
「体に気をつけるのよ」
まるで母のような言葉に、シルバーはまだ見ぬ母を思い出した。
「……わかってる」
シルバーはヤミカラスの足をつかんだ。シルバーの体が、ふわりと浮きあがる。
「おまえも、頑張れよ」
シルバーは最後にそう言って、空高くへ舞い上がっていった。
クリスはそれを見上げて、しばらくそのままだったが、やがて動き出した。
まだ、ホウエンへ行くための準備は、整っていない。自分だけ遅れを取ってもいられない。
「行こう、メガぴょん!」
三人が、それぞれの土地で歩み始めた。
羽鳥様のみお持ち帰り可。
相互感謝小説です。
ジョウト三人組……この三人、本編でも、本編が終わってからも、揃うことってあまりなかったじゃないですか。だからいつも以上にシチュエーションに悩みました(笑)
ツッコミどころ満載でごめんなさい。
シロガネ山が圏外だってことはわかってはいるんですが(汗
ついでに、六章が終わって、話が食い違ってきたらごめんなさい。