ホワイトお正月
「クリス」
「ん?」
「めちゃくちゃ寒ぃ」
ゴールドは身震いをした。
クリスはため息をつく。
「だから朝にも、マフラーくらいして来なさいって言ったでしょ」
「だって、天気よかったじゃん」
「あのねぇ、天気は良くても空気は寒いの。自業自得でしょ」
二人は夜の道を歩いている。
夜とはいっても、家や店の明かりで、あたりはまだ明るい。
「……寒」
震えるゴールドに、クリスは一言、
「置いていくわよ」
クリスは抱えていた包みを持ちかえる。
その首には、マフラーが優美に巻きついていた。
「置いていくなって」
ゴールドは、いつもどおりトレーナーに半ズボン姿だった。
こんな恰好で冬の中を出掛けようとしたゴールドは、やはり後先を考えていないのだ。
「でもよぅ、こんなモンをプレゼントして、シルバー受け取ってくれるのか?」
「そうね、もうブルーさんの先約があるかもね。それも、手編みの」
クリスが持っている包みの中には、藍色のマフラーが入っている。
二人は今日、コガネシティまで買い物に行った。
それぞれ冬支度や正月の買い物があったのだ。
シルバーも誘ったのだが用事があると断られたので、せめて土産だけでもと買ったのだ。
長そで長ズボンブーツに手袋を常時身につけているシルバーには、無用の長物かもしれないが、
「でもよ、やっぱ、一人暮らしってのは、寒いんじゃねぇのか?」
ゴールドはひとり呟く。
が、その直後に風が吹き、ゴールドは身を震わせた。
「……の、前に、オレが凍え死んじまう」
少し先を歩いていたクリスに追いつく。
「なぁ、クリス」
「なによ?」
「お前のマフラー、長いな」
クリスが怪訝そうに振り返る。
「だから、なによ?」
ゴールドは言った。
「オレと一緒に巻」
「かないわよ」
間髪入れず、クリスが答える。
「ええっ!?」
「なにをそんなにびっくりしてんのよ。当り前でしょ」
「だってお前の、どう見たって二人分の長さじゃねーか」
「おあいにく様。あんたのための長さじゃないのよ」
「ええっ!!! ま、まさかクリス、彼氏が……」
口をパクパクさせるゴールドに、クリスがふふんと得意げに答える。
「秘密」
「ま、まさか……」
とそこでまた風が吹き、ゴールドはくしゃみをする。
「さ、さむ……」
言いきることができず、またくしゃみをする。
ひと段落つき、呼吸を整えたゴールドに、小さな白い物体が目に入る。
腕にとまった小さな白い物体は、何を言う間もなく消えてなくなった。
ゴールドは、暗くなった空を見上げた。
「……雪だ」
その言葉に、クリスも立ち止まった。
「あら、ほんと」
ぱら、ぱらとまばらながら、ゆっくりと白い天使が舞い降りる。
吐く息に、小さな氷の粒がまじる。
「初雪ね」
クリスが空を見上げたまま言う。
その言葉にゴールドは空から目を戻し、クリスを見つめた。
クリスはやさしい微笑を浮かべたまま、空高く天使のやってくる場所を見つめている。
その姿ははっとするほど美しかったが……
「は、はくしょん!」
いかんせん、冷たい風がゴールドの肌を直撃する。
「う〜、マジでマフラー着てこりゃよかった」
クリスはくしゃみで、ゴールドに向き直る。
「まったく、初雪くらい、くしゃみなんかしないで見なさいよ」
「し、知るか。ハクション!」
クリスはため息をつく。
「行くわよ。あんまり遅くなると、シルバーに迷惑でしょ」
「わーってるよ。クシュン」
本格的にやられたな、と思いながら、ゴールドはできるだけ体温を守ろうと、買い物袋を抱きかかえる。
クリスの後ろについて歩きながら、何度も何度もくしゃみをする。
突然クリスが立ち止まった。
「んだよ」
聞いたゴールドに、クリスはため息をついて、言った。
「だから、マフラーくらいして来なさいって言ったのよ」
そして、クリスは首に巻いたマフラーを、半分だけ解いた。
「ほら」
その端をゴールドに差し出す。
「え?」
「巻きなさい。このまま風邪ひいたら、馬鹿らしいでしょ」
「いいのか?」
「聞いている余裕があるの?」
言われてゴールドは、また身震いをする。
「……どうも」
小声でお礼を言い、マフラーを巻く。
クリスの体温で、かすかに暖かい。
「行くわよ」
「お、おう」
二人は再び歩き出す。
降る雪が、少しずつ多くなる。
マフラーに落ちた雪が、じんわりと染み込むように消えていく。
「ホワイトお正月ね」
誰ともなしに、真面目な顔でつぶやいたクリス。
ゴールドは慌ててクリスと逆の方を向く。
「? 何よ?」
「……マジでズレてんな、こいつ」
吹き出しそうになる。
「なんか言った?」
「いや、なんでもないっす」
ごまかすために、空を見上げる。
盛んに降ってくる雪。
雪は降ってくるものなのに、なぜか自分が空に吸い込まれそうになる。
不思議な感覚。
「? まあ、いいわ。行くわよ」
「おう」
マフラーの温かさを感じて、二人は歩みを進める。
かすかな香水の匂いに包まれ、ゴールドはマフラーに首を預ける。
なぜ、雪はすぐに溶けてしまうのだろう。
なぜ、冬空は美しいのだろう。
不思議なことはたくさんあるけれど、確かに幸せはここにある。
「シルバーの家で、ちょっと暖まらせてもらうといいわ」
「おう」
雪は、とっても温かい。
隣に誰かの息遣いを感じながら、二人は歩く。
シルバーの家は、まだ少し先だ。
ホワイトお正月という誰かさんの発言を受けて衝動で書いた。