ふぃっち どぅー ゆー らいく べたー?
「グリーン! ちょっと、グリーン! いるんでしょ!」
ドンドン、と玄関のドアが叩かれる。まったく、今日の朝くらいゆっくりさせてくれればいいのに。
仕方なく、俺はコーヒーの入ったカップを置いて立ち上がる。
「おい、グリーン。ブルーが来ておるぞ」
その時、奥からおじいちゃんが顔を出して言った。
「わかってる」
ドンドンと打ち鳴らされるドアのかぎを外す。いつもはカギなど書けていないので、いつの間にか隣人のたまり場になっていた、なんていうこともしょっちゅうだが、今日は朝早いためかまだ鍵が開いていなかったのだ。
カチリ、と音がしたときにはもう、外の女が飛び込んできた。
「まったく、朝っぱらからうるさい女だ。いったい何の用だ」
「何の用だ、はないでしょ。見送りに来てあげたんだから」
そしてブルーは一息ついた。
「はぁ。よかった、間に合って」
よく見ると、息切れしている。自分の家から走ってきたのだろうか。なにもそんな真剣にならなくともいいのに。
「ねぇ、グリーン。いつ出発するの?」
唐突にブルーが聞いた。
「昼ご飯を食べた後だ」
するとブルーは、あろうことか玄関前に座りこもうとした。あわてて手をつかみ、思いとどまらせる。
「ちょっと、こんなところに座るなよ」
「だって、グリーンのことだから朝早く出発すると思ったんだもの。がんばってきたのに、何よそれ!」
何よそれって言われてもな……。
「とにかく、あがれ。立ち話は疲れる」
「あ、お茶はレモンティーでいいわよ。当然ストレートね。それじゃ、お邪魔しまーす」
調子のいいことを言って、靴を脱ぐ。うちにレモンティーなどというものがあると思っているのだろうか? とりあえず、この前姉さんがもらってきた、アップルティーにすることにする。まだあと3,4杯分は残っていたはずだ。
とそこで、俺はブルーが大きな袋を持っていることに気づいた。なぜか、嫌な予感がした。この女、俺の見送りに来ただけだよな……?
「とりあえず、ここで座ってろ」
客間に通すと、俺はアップルティーを作りに台所に行く。思ったとおり、茶葉が残っていた。一人分しか残っていなかったのだが、まあいい。姉さんも、ブルーなら許してくれるはずだ。
「遅ーい!」
客間に戻るやいなや、ブルーは声を上げた。
「しかもそれ、レモンティーじゃないでしょ!」
「アップルティーだ。文句言うな」
ブルーの前にカップを置く。一口飲んで、大人しくなった。どうやらお気に召したようだ。
「ところで、お前もしかして、昼までここにいるつもりか?」
俺は、昼から武者修行に出発するつもりだった。理由はもちろん、レッドに再戦を果たすため。その見送りに来たのなら、昼までいると言ったとしても不思議ではない。
ブルーは一瞬、キョトンとした表情になったが、次いで笑い出した。
「なんだ、そんなこと気にしてたの? 何? あたしがここにいちゃ、迷惑だっての?」
「……迷惑、というか……」
いや、正直にいえば、迷惑なんだけれど。
ブルーはもう一度カップに口をつけて、言った。
「そんなに長いする気はないわ。こっちも予定があるしね。ただ、どっかの誰かさんが武者修行をするって言うから、プレゼントを持ってきたの」
ガサリ、ともっていた包みを開けた。
大きさからして交通安全のお守りとかいうことはないだろう。しかしなぜか、嫌な予感がする。ポケモンバトルで磨いた俺の第六感、馬鹿にしてもらったら困る。
「これよ!」
ブルーが引っ張り出したのは、青色の布とピンク色の布だった。
「……何それ」
ごく当然の疑問が浮かぶ。
「決まってるでしょ! マントよ、マント」
「はぁ」
「あんた、武者修行をするんでしょ? 武者修行といったらマントじゃないの」
いや、その常識はずれな知識は一体どこから……
「で、2つ作ってきたの。あんたが好きな方をあげる!」
そして青色の布、もといマントと、ピンク色のマントを俺に押しつける。
まさか、ピンク色のマントを着たいという男は、おそらくいないんじゃないだろうか? 当然、俺は青……
が、そこでブルーが口を出す。
「あたし的には、ピンク色を着てほしいなーって思ってるの。ねぇ、ホラかわいくない!?」
バッとそれを広げると、何とでかでかとハートマークの刺繍が入っていた。俺は頭を押さえた。このときの俺の気持ち、わかってもらえるだろうか?
「ブルー」
「はい?」
「青いのでいい」
「え〜〜〜〜」
ブルーはとたんに悲しげな顔になった。
「せっかくグリーンに着てもらおうと思って作ってきたのに……」
しゅんとした顔になる。
俺はあわてた。ブルーを泣かせてしまったのかと思ったのだ。
しかし冷静になって考えてみると、レッドが以前ブルーの泣き顔にだまされたという。ブルーをよく見てみると、泣きそうな顔の中に、どこか意地悪げな笑みが浮かんでいる。
俺は再び頭を押さえ、
「俺は青い……」
とそこで、ブルーが俺のもとに寄ってきて、俺の右手を握った。っていうか、顔近いから!
「ねぇ、グリーン。あたし、一生懸命作ったの……」
う、気づけば涙まで浮かべていやがる。
なぜ、ピンク色を選ばなきゃいけないような気がしてくるんだ!
「お・ね・が・い」
まて! まてまてまて! なんでそんなに一字一字区切って言うんだ! っていうか、何なんだこの技術! なんだこの動悸は! 思いっきり俺が悪かった気がしてきた。
「じゃ、じゃあ、そこまで言うならこっちのピ……」
が、俺の理性は危ういところでブレーキをかけた。
落ち着け、俺。ピンク色のマントを、それもハートマーク付きのマントを羽織った俺が、クールに『せいぜい自分を鍛えるんだな』とか言っている姿を想像できるか? 熱血レッド君のライバルとして、冷静沈着と言われる俺が、リザードンの背の上でピンク色のマントをはためかせながら、カントー上空を嬉しげに飛び回っている姿を想像で……想像………想…………
「って、できるか!」
俺はピンク色のマントを床にたたきつけた。するとブルーは舌打ちした。
「いいとこまで行ったのに、やっぱダメだったか。レッドなら、今ので完全に落ちてるんだけどな……」
お、落ちてるって、まさかオマエ……
「あ、安心して。レッドには普通のバンダナしかあげてないから」
そして青いほうのマントを再び袋にいれ、俺に押しつけた。
「はい。せっかく作ったんだから、ちゃんと着てよね」
「あ、ああ」
「っと、いけない。これから行かなきゃいけないとこがあるのよ」
時計を見て、ブルーが立ち上がった。ピンク色のマントをわきに抱える。
「じゃ、気をつけてね。今度見たときマントを着てなかったら、どうなっても知らないからね!」
来た時と同じくらいのスピードで、ブルーはいなくなる。
あっという間に、室内が静かになった。
ふと気付いて、ブルーに渡された袋を開ける。ちゃんと青いほうのマントが入っていた。広げてみて、どこにもハートマークがないことを念入りに調べる。
と、何かが挟まっているのに気づいた。小さなメモ用紙だった。
「グリーンへ
しっかり修行ができるよう、愛を込めて作りました。
だからグリーンも愛を込めてきてください。
ただし、今度レッドに勝てなかった場合、
ピンク色の方のマントを着てもらうことになるので
覚悟しておくように。
ブルー 」
「…………」
苦笑して、マントを羽織ってみた。
少し重かった。しかし、気になるほどでは無い。
マントのやわらかな感触は、嫌でも修行について考えさせたのだった。
以前ブログに書いたやつ。
とりあえずマントが書きたかったのです。