ピカの過去
その日、そのトレーナーは僕に背を向けた。
「じゃあな」と振り返りもせずに。
笑顔で塗り固めた仮面を脱ぎ捨て、いとも簡単に僕を捨てた。
追いかけようとした。
が、踏みとどまった。
笑顔にだまされた僕が悪い。
どうせ戻ったって、一度捨てられたのだ。幸せになれるわけがない。
それなら、自分ひとりで幸せになってやる。そして、見返してやる。
僕は走った。故郷のトキワの森に帰るために。
尻尾がレーダーの僕には簡単なことだった。
そして、トキワの森。
懐かしい匂いが漂う。
が、感傷に浸っている場合ではない。
僕は一人で生きてゆけることを証明しよう。
・・・人間たちに向かって。
そして僕はおたずね者になった。
人間たちから食べ物を盗んで、食べ、そして逃げる。
人間たちは僕を追いかけた。商品がめちゃくちゃにされるという理由で。
なぜ、それごときの理由で僕を追いかける?
なぜ、僕は人間たちから何も盗んではいけないんだ?
なぜ、りんごを食べてはいけないんだ?
人間たちは、僕らの生活をめちゃくちゃにしているというのに・・・。
まあいい。怒りたければ怒ればいい。
僕は絶対につかまらない。つかまるもんか!
だがあるとき、ポケモントレーナーがやってきた。
勝負を仕掛けてくるつもりだっていうのは、見ればわかった。
ポケモンを捕まえ、戦わせ、そして捨てる。
そんなポケモントレーナーなんか、大嫌いだ!
僕の電撃をくらいやがれ!
だがレベルが違いすぎた。
何が起きたのかもわからない。
僕はあっけなくボールの中に納まってしまった。
ハッ、と目を覚ましたとき、僕はモンスターボールの中にいた。
赤い視界の外側に、トレーナーのベルトが見える。
出せ! どうせすぐに捨てられるんだ!
さっさと出せ!
暴れまわっていると、トレーナーは僕を外に出した。
だが逃がしてくれるというわけではないようだ。
僕のごきげんとりか?
「仲良くしようぜ、なっピカチュウ!」
なんて言って、僕に向かってにこっと笑う。
だがもう、笑顔にはうんざりだ。
バチッと電気を流すと、そいつはイテッと顔をしかめた。
そしてまた次の日。
そのトレーナーは、僕にバトルをさせる気でいる。
何が「たのむよ」だ。
散々こき使われたあげく、すてられるのがオチだろう。
だが僕の気持ちとは裏腹に、僕は相手のポケモンの前に出された。
相手は、岩でごつごつした、かわいいの「か」の字も浮かんでこないようなやつだ。
トレーナーに散々こき使われているのだろう。かわいそうに。
でも僕はこきつかわれてなんかやらない。
フン、とそっぽを向く。
ゴイン!
突然、相手の岩が僕の顔に当たった。
僕のハンサムフェイスが台なしじゃねーか!
それもこれもおまえのせいだ!
僕はトレーナーに電撃をぶちかました。
おまえのせいだ!
おまえのせいだ!!
おまえのせいだ!!!
だがそのせいで、僕は迫ってくる岩モンスターに気づかなかった。
「ロケットずつき!」
気づいたときにはもう遅い。
やつはどんどん近づいてくる。
もう終わりか。やはりポケモントレーナーなんてものは・・・
が、
ズズン!
感じるはずの衝撃が、こなかった。
「ふう、おまえが無事で良かったぜ」
僕を抱いたトレーナーが、にこりと笑った。
隣の地面には、岩モンスターが作った大きな傷がある。
まさか、こいつが僕を助けたのか?
この笑顔は、・・・にせものではないのか?
「とどめだ!」
相手がむかってくる。
岩モンスターのスピードがあがる。
僕には、それがしっかりと見えた。
・・・僕を助けてくれたのなら、一回くらい助けてやってもいいだろう。
岩モンスターは、一発で倒れた。
そのトレーナーの名はレッド。
そして僕はピカチュウ。
どうせやるなら、レッドのチームで一番になってやろう。
・・・ピカとして。
過去というよりは一巻の場面のピカばぁじょん。
ポケモンの意思を一人称で書くと絶対に変に感じてしまう・・・
ピカの一人称、「俺」にしようか「僕」にしようか迷ったんだけど。
元祖ゴールドのセリフ「僕のハンサムフェイスが・・・」はお遊び。
適当にスルーしてください